- Date: Wed 03 11 ,2021
- Category: パフォーマンス Performance
- Tags: 即興演奏 インプロヴィゼーション 照内央晴 2021 山猫軒 ピアノ パフォーマンス 即興 音楽
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即興ピアニスト:照内央晴インタビュー「“わかる”ことから漏れるもの」

即興ピアニスト:照内央晴インタビュー
インタビュワー:広瀬真咲
照内さんとお知り合いになった時もやはり東京のアンダーグラウンドであった。
パフォーマンス・アートに取り組みはじめて、自分でもイベントの企画をやるようになった頃、
江古田のCafe FLYING TEAPOTでお客さんとしてふいに現れたのが即興ピアニストの照内央晴さんである。
その後ライブに伺ったり、何度か快く共演をさせていただいている。
今回の企画(※詳細下部参照)でも共演するパフォーマンス・アートと即興演奏(インプロヴィゼーション)。
唐突だが、パフォーマンス・アート、即興演奏というのはどんなものか?と一言で説明するのが難しい。
共通しているのは、自由で、不完全であるということだ。
シンプルに言えば、例えばクラッシック、ジャズと言えば、頭の中でどんなものか
イメージはしやすいと思う。
だが、パフォーマンス・アート、即興演奏と聞くと、なんとなく漠然としてしまうのではないだろうか。
出演者によって、やることが違うし、毎回違うことが始まる。
また、同時に、「良かったな」「悪かったな」という評価がしにくい。
なぜなら、どこまでも完成しないものだからだ。
それは見る/聴く価値があるのだろうか?
果たしてそんなアンフォルメルなものに、ずっと取り組み続けるのは何故だろう?
今回は即興ピアニスト、インプロバイザーである照内さんのインタビューで
そのあたりを少しでも明らかにできたらと思っています。
それでは照内さん、よろしくお願いいたします。
(以下太字広瀬)
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照内央晴、広瀬真咲Duo 「ルビーの落としもの 拾いもの」 2019 越生ギャラリィ&カフェ山猫軒
1.以前幼い頃からと少し伺ったことがあるのですが....
照内さんがピアノを始めたきっかけをお聞かせください。
(照内) 一人っ子で、超のつく泣き虫だった私に、幼稚園の終了時間後に希望者に、
ヤマハの音楽教室がくるというので、少しでもお友達ができたらいいだろうとの
両親の思いから勧められて、始めました。
2.即興演奏(インプロヴィゼーション)との出会いはいつ頃ですか?
またそのきっかけをお聞かせ下さい。
照内)20代の中頃、とある大人数の緩やかな形態のバンドで、
楽曲の中でかなり自由に演奏する場合が多かったので、活動としてはそれが出会いと言えるでしょう。
遡ると、幼稚園の頃のヤマハの音楽教室も、即興的な事を取り入れていたと思うし、
その頃から、自らの自由なイメージを膨らませてピアノを弾くことは好きでした。
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3.ピアノを始めてから、紆余曲折あり?即興ピアニストとしてステージに出るようになるまでの、
簡単な経緯を教えて下さい。
(照内)若き頃に、音楽の学校に行き、プロとしてピアノや作曲の活動をしたい
と願った時期が無かった訳ではありませんが、
でもその事がなにか目に見える形となるようなことはないまま
過ぎ去っていきました。人生の紆余曲折に関しては長くなり過ぎるので、全て省きます(笑)。
ピアノを弾くことは細々と続けていましたが、30代も半ばに差しかかる頃、
やはりピアノを弾きたいし、出来れば人前でそれをしたいと強く思うようになりました。
楽曲の中で多くの部分即興演奏を行う試みもしましたが、
やはりあまり細かな打合せや取り決めをせずに行う即興演奏が自身には大変向いていると感じ、
人前での演奏はそのほとんどを即興演奏で行うようになりました。
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4.即興演奏(インプロヴィゼーション)って何でしょうか?
そのジャンルの始まりから、現代にいたるまでの流れを、
ご自身のミュージシャンとしての立場を含め、
簡易に教えて下さい。
(照内)クラシック音楽の古典や、それに先行するバロック音楽でも、
即興演奏はずいぶんとなされていたようですね。
以降現代に至る中で、いろいろと分断はあるようですが。
直接的には、戦後1960〜70年代日本や世界の、フリージャズのムーブメントが、
そのエネルギー熱量も含めて影響していると、私の場合は感じます。
もっと根源的には、人が生き、辛かったりたのしかったり、
そういったときに、言葉を発したり、歌をうたったり、踊ったり、叫んだり、といった心の、
魂の衝動自体が、即興演奏の始まりなのではないかと思っています。

照内央晴、佐久間佳子(サンバ)Duo 「PPP 重なる時空」 2017 神保町試聴室
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5.即興演奏の魅力をお聞かせ下さい。
話が少し脱線しますが、自分がパフォーマンス・アートをやっていて、
はじめて見た人から、見方がよくわからない..というような感想を聞きます。
例えば、有名なジャズシンガーのコンサートに連れられて行ったことが昔あるんですけど、
そういうものを見て、よかったな、悪かったなっていう評価はしやすいと思うんです。
ある意味それが自分なりの、そのコンサートや演奏者に対する着地点ですよね。
パフォーマンスの場合、今でもそうなんですが、
自分が他のアーティストのパフォーマンスを見て、良かったな、悪かったなっていうのは
当然あるんですけど、それ以上に「これは...良かった..のか?」
「いったい何だったんだろう」という感想を持ってしまう。
見た後に着地点がなくて、10年ぐらい前に見たパフォーマンスでも、
今でも時々思い出して、「あれは何だったのかな」と考えてしまう。
厄介なことに、自分のパフォーマンスでも、見た人がそう感じてほしいと思っている。
「よくわからないこと」が魅力だと自分は思っているからです。
ジャンルは全然ちがいますが、即興演奏を聴いた時にも共通するものが私はあると思うんです。
世の中の多くのものは、およそ形のあるもの、完成してるもの、わかりやすいものを楽しむ
ようにできています。しかし、あえて不完全で、定まった形がなく、
「わかりにくい」ものに長く取り組んでいる魅力とは何でしょうか?
また、言い方は非常にあれなのですが、世の中には、即興なんて素人が好き勝手やることでしょ、
みたいに思ってる人も、残念ながらいるんですよね。
そういった向きに対しても何か言えることがあれば....です。
(照内)既成の楽曲演奏や取り決められた枠組みのしっかりしたものの中では、
けっして表出することの出来ないような世界が顕現する可能性がある、
またその可能性に賭けることができることが、取組む側の私としてはとても魅力です。
取組む側にとっても、ほんと夢みたいな素晴らしい世界が現れることがあるんですよ!
ちょっと魔法のように思うことすらあるのですよ。なんでこんなんなっちゃったんだろう?
とか、なんでこんなことが出来ちゃったんだろうって!それって説明できないけど、
奇跡のような凄い事だと思うんですけどね。
表現や芸術、アート関連でも、なんでも言葉で説明出来て、
頭で理解できるものがもてはやされ易い気がします。
でも、それってどうなんでしょう?
それら“わかる”ことから漏れるもの、これ、なんなのかな?という、
言葉で捉えられないようなもの、その事の大切さも、
言葉や概念で多くの事が説明され理解可能になってゆくほど、痛切に感じています。
ただ、まったくわからない、というのも、人間には苦痛なところもあるので、
少しでも理解のきっかけになるようななにか、は必要なのかも知れない。
例えば、初めて広瀬さんのパフォーマンスを観て衝撃を受けて、
でも「これは画家の私の脳内なんです」的なことを伝えて下さった事で、
個人的にその後、パフォーマンス・アートにとっても親しみ易くなったという経緯があります。
私自身、即興的、あるいは、不完全な作品、それ以外のもの、完成した作品や、音楽なら
しっかりと構築された楽曲とか、物凄く憧れやリスペクトがあります。
そのハードルがじぶんの中でとても高いから、
逆にそうでないことに一生懸命取り組んでいるという面も、あるかも知れませんね。

「PPP 重なる時空」 2017 神保町試聴室
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6.けっこう長く活動を続けている照内さん。
アンダーグラウンド(という言い方を私はしています。)の世界で、
音楽に限らず舞踏や芝居などでもいいので、昔と今で何か変わったことはありますか?
(照内)即興的なものに関しては、それでも以前よりずいぶんわかってもらえる、
理解してもらえることが増えてきているのかな、とも思います。
枠に嵌まりきらない即興的という心性は、
フレキシブルなこれからの時代に求められる心性なのかなと思ったりもします。
そうかと思うと、ずいぶん閉鎖的で心が閉じているのかなと感ずる時もあり…。
そのあたり、大きく揺れ動きながら全体が変化していっている、というのが実情なのでしょうか。
アンダーグラウンドという概念、在り方についても肯定的に捉えるということ、大切だと思うし、
その方が個人的に親近感も感じますね。
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「アートで田んぼ」 2016 香川
7.照内さんは、鋭角なピアノ、とよく評されるのを聞きます。
私もたくさんの人のピアノを聞いたことがあるわけではないのですが、
ほわほわっとしてマイルドっていうよりは、鋭く迫力のあるステージだなと思います。
ご自身が演奏に向かう時の意識やモチベーションがあればお聞かせください。
また、ダンサーや舞踏家と共演したり、畑でグランドピアノを弾いたり(!)など
常にチャレンジングな姿勢を崩さない照内さんですが、
ピアニストやミュージシャンの中には、一定のスタイルでずっとやっていく人もいると思います。
そうした演奏者がいるなかで、常に新しいことにトライすること、
また、多様なアーティストと共演すること、の意欲や意義を
お聞かせください。
(照内)私は、私自身もまだ知らないような可能性を求めて、即興演奏に取り組んでいます。
まだ見たことのないような世界とか、そういった事を現出させたいと希求しています。
それは、ある種の高み、といってもいい。そこには、挑戦する、臨む、挑む、というニュアンスが強くあります。
日常性の超克という面もあるかも知れません。ので例えば、道にそっと咲く小さな花に感動する、といった心性とは、
ちょっと異なるように思うのですね
(そういった心性を否定している訳ではないです。取り入れてもいきたいと思っています)。
鋭角的であるとか、迫ってくるとかいうのは、私自身の即興演奏に臨むときの基本の姿勢が、
関係しているかも知れませんね。 多様な演奏者やパフォーマー、他ジャンルや様々な場での共演というのは、
もうそれが本当に、凄い可能性を啓いてくれるのですよね!その事が心の底から面白い!そう思います。
私自身、悩み多かったり、心が苦しかったり、そういったことも長かったですが、
即興演奏もながく続けて、ずいぶん心が楽になってきた、とも感じています。
音、音楽による佳き深い共振が、自分自身、観、聴きして下さる方にとどまらず、
もっともっと広がっていってほしいと、近頃は思っています。

「PPP 重なる時空」 2017 神保町試聴室
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+照内央晴インタビューエピローグ+
東京のその方面のライブハウスに行けば
どこでも名前を見るほど猛烈な勢いでインプロに取り組む照内さん。
イベントなどでお会いすると、これもらいものなんで...と、
いつもポッケやカバンから甘いものが出てくるなど、
近所のオバチャン気質な一面もある。
ピアニスト的な繊細さ、音楽家らしいエモーションがあり、
気さくな人柄でもある。
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+お知らせ+
インタビューをした即興ピアニスト照内央晴さん、
パフォーマンスアーティスト関谷泉さん、
インタビュアーわたくし、こと広瀬真咲が越生の一風変わった
ギャラリー「山猫軒」にて11/7(日)パフォーマンス企画を行います。
駅からタクシー15分で山の中の会場ですが、
とても素敵でゆっくり落ち着けるところです。
お帰りは少し待ってくれるのであれば、
乗合いなどでお車で駅まで送れるようにいたします。
広瀬真咲個展会場での特別開催です。
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【特別企画】
"chiral*** パフォーマンス・アート、即興ピアノ”
11/7(日)18:00-開演 2000円+1drink order /予約有り無し歓迎
performacne:広瀬真咲、関谷泉
piano:照内央晴
ギャラリィ&カフェ山猫軒(埼玉県越生町)
アクセス:東武越生線越生駅下車、駅前タクシーで約15分/駐車場数台有
https://www.yamaneko.info/
東京アンダーグラウンドで突き刺さるような
圧倒的ステージを見せる照内央晴、関谷泉と
オルタナティブアートシーンで独自の作品発表を続ける、
広瀬真咲のソロパフォーマンスを含めた共演企画。
少しお早目に来てゆっくりとした空気の中で
時を過ごされるのをお薦めします。
周囲の自然や史跡散策もぜひお楽しみください。
*マスク等感染対策をしてお越し下さい。
問い合わせ先:
ギャラリィ&カフェ山猫軒
〒350-0425 埼玉県入間郡越生町龍ヶ谷137-5
mail@yamaneko.info
049-292-3981
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照内 央晴 Hisaharu Teruuchi
即興ピアニスト=即興演奏にほぼ特化したライブ活動をしています。
自由な世界を求めて辿り着いたのが、実は自身の原点に舞い戻ってきただけの事と、
気付いたような気もします。他ジャンルの方との共演は、身心が啓かれ豊かになります!
1972年、東京生。
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インタビュアー:
広瀬真咲 Masaki Hirose
2008東京造形大学絵画専攻卒。卒制でパフォーマンス・アートを行う。
卒業後、国内外のパフォーマンス・フェスティバルに出演。
2013年頃より絵画制作も再開し、生態学と称し数年おきに個展を開催。
(照内回答以外の)文章: 広瀬真咲 2021
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